私の自宅は、今から15年ほど前に親戚から購入したものであるが、その家に壁掛け時計が付いていた。
我々の仕事は、23時に仮眠して、25時に居酒屋さんの閉店に合わせて出撃するなど、仮眠という睡眠が多い仕事である。
そんな生活をしている者にとって、深夜の23時や24時に、それぞれ11回と12回と時を知らせる、金属性の音は安眠妨害の何物でもなく、こんな時計捨てちゃおうか、と家内に言ったところ、それ以後いつ見ても、正午の位置で長針も短針も重なって止まっているようになった。
そんな折り、このまま止まっている時計では、動かなくなってゴミになってしまうと気が付き、ゼンマイを巻いて、動かしてみたら、カチカチと秒を刻み動き始めた。
気になって文字盤を見たら、ドイツ製でユンハンスの文字が読み取れたので、インターネットで調べてみた。
Jのマークの周囲が正七角形だったら、1910年代、正八角形だったら、1920年代の製品です。と解説されており、もう一度登って確認すると、正八角形で1920年代と確認できた。
あのうるさいと感じた音も、ウエストミンスター寺院の鐘の音を模したものと書かれていると、有り難くさえ聞こえてしまうから不思議なものである。
ネジを巻いてから数分後だったが、午後9時になり、9回聞いた金属性の音は、ウエストミンスター寺院の聖堂さえ行ったことはないが、思い浮かべるかのように、目を閉じて有り難く聞き入ってしまった。
壁掛け時計の裏には、保証期間のシールがあって、91年経過していることが分かった。
91年経過しているアンティーク物であると認識すると共に、解説を読み進むと、「当時の一戸建て住宅は20万円程度であったのに対して、この時計は10万円程度した。」と書かれている。
新築住宅の半値と思えば、現代であれば4千万円程度の建売と比較しても、2千万円ということになる。モォー大変である。
頭の中は、おひとり様鑑定団モードに自動的に突入してしまっている。
商品の概要のナレーションの次は、≪本人評価額≫へと進み、専門家の鑑定で評価額が正されるというのが、番組の進行であるが、私の頭の中では、商品ナレーション情報に素直に従って、そのボードは、≪本人評価額 2千万円≫と書いた訳だ。
番組の進行とは別に、半額で売れたとしても1千万円になる、さぁーどうしようか。
老朽化した住宅の塗装でもしようか、などと堅実なことを考える一方で、無かったものとしてパァーッと・・・などと、夢見る少年モードへと移行していた。
苦楽を共にしてきた、家内にもこの吉報を速報で伝えなければならない。
ニュース速報モノだと考えて、すぐに電話したところ、家内曰く、「あなたの出張中などに、ネジを巻いて、止まらないように動かしていた。」と聞かされ、内助の功を感じたりした。
それにしても、評価額が知りたいから、またインターネットで売りに出されている価格について、調べてみた。
・・・・そんな筈はない。
住宅の半値もした物だから、そんな金額ではない、
何かの間違いだ!などと思いながら調べてみたが、たくさんの同型がネット上では売られていて、最高額でも35,000円でしかなかった。
20,000,000円 という評価額ボードに、×印がついて、35,000円である。
あの多くの鑑定を依頼して出演された方々が、ボードを下げながらガッカリする姿と、その心理状況が体験できた。
それにしても、家内に陰ながらネジを巻かれ続けて91年目でも正確に動いている時計も凄いけど、死ぬまでネジを巻き続けていくのかと、ふっとわが身に帰りながら、そのことも含めて家内への伝言を娘に頼むと、「甘えてちゃだめよ。いつまでもネジを巻いてもらえると思っているの?」とキッツーいジョークが返ってきた。