京都での仕事。実は嬉しい。
広島、兵庫、大阪などの帰り道であり、60歳に近い肉体で、決して楽ではないけれど、京都という街は大好きである。

京都では、午後1時に定宿にしているホテルにチェックインするが、その前に祇園に行く。美味しいお昼と香辛料を買うためだ。香辛料は、原了郭(はらりょうかく)というお店で、黒七味と粉山椒を買う。東京のデパートなどでも売っているが、ここに寄りたくなるから不思議だ。

昔、学校の教員だった父が、清水寺に生徒を引率し、その帰路に門前の有名店で七味唐辛子を買って帰ってくた。焼き魚でも、和え物でも、味噌汁でも、何にでも振り掛けて、よく母に叱られながらふたりで楽しんだものだ。

ところが、50歳を過ぎてから、ある寿司屋のオヤジさんに、「この山椒を振り掛けてみて下さい。美味しいですよ。」と言われてから、原了郭(はらりょうかく)を知り、ハマってしまった。そして、粉山椒と黒七味の両方を常用するようになった。

ある時、京都のうどん屋さんに入ったら、違うお店の山椒が置いてあった。使ってみると、これも香りが立ち昇り、なかなかの良品であった。私の知らない香辛料のお店が京都には他にもあることを知った。うどん屋さんに聞いたら、「イイでしょ。その店の山椒は安うてな。」というのである。

そこで、聞いてみたら驚いた。祇園の近辺だけで4軒の香辛料の専門店があるそうだ。1キロ四方程度の範囲で、4軒の専門店がある。東京にそんな場所はないように思う。
京料理に必要不可欠だからなのだろうか。京都の人々の消費量が多いのか。東京のデパートでも販売しているぐらいだから、全国的に見ても京都ぐらいしか香辛料の美味しいお店がないのか、・・いろいろと思い描いてみたが、食文化の歴史なのだという最大公約数に気が付いた。
歴史とは凄いものだ。この原了郭(はらりょうかく)さんも元禄16年から300年続いている一子相伝の家業だそうだ。歴史を経ていることの意義、存在感、商品力。凄いと思うし、また立ち寄りたくなる。