ランチタイムの始まる寸前に、うどん屋に飛び込んだ。我々より先客がふた組みあった。二組と言っても、三人連れの家族と、65歳ぐらいのひとりの女性客である。
元気な大きい声の女将さん(65才ぐらい)と、娘のような中年の女性(35才ぐらい)の二人がホールにて配膳係をしている。厨房にはふたりの男性の影がある。
我々が入り掛けると、「いらっしゃいませ。うちはね。お客さんのような仕事の方に人気があるのよ。メニューも麺類とご飯物を合わせた定食もあるから、お腹一杯になると思うわよ。」と言うし、その上メニューをひとつずつ説明して、結果的にお勧めのメニューで、天麩羅そばと親子丼の組み合わせとなった。
我々が食べ始める頃、先客の女性の一人客が会計のために荷物を持って席を立った。女将さんは、すかさず出て来て、「おおきに。お客さんのような味の違いの分かるお客さんがうちは多いのよ。有り難いと思っています。」と話し掛けると、女性客は「近所でも知らない人が結構居てはりますね。」と返した。すると女将さんは、「息子が修行から帰ってきたので、そろそろ宣伝でもできるかなと考えていたところです。」と言うのである。
その後間もなく、家族連れが席を立ってお会計に行くと、「お腹一杯になりましたか。」と聞きながら女将さんが出てきた。「ウチはねぇ。年越し蕎麦の予約も受け付けているので、良かったら予約して置いて下さい。」というのである。
お客様ひとりずつの状況や生活環境まで見抜いて、ひとりずつ話し掛けている。接客の原点を見るような気がするし、関東地方では出会うことの少ないパターンだけに、京都の女性のしたたかさを見たようにも思えた。
「なにしてはりますねん。」「あきまへんな。」ニュアンスは優しい。ソフトな感触さえ感じるが、ひとりずつに話題を変えながら、巧みにビジネスに結び付けるあたり感心させられた。
そのうえ積極性は雇われている従業員やバイトなどとまったく違う。京都の女性のしたたかさなのか、分からない。見習うべきなのかも知れない。