弊社には、工場がある。埼玉県下に2階建て延べ床面積220坪である。ここにA君という真面目な40歳のスタッフがいる。大学生の時のアルバイト時代から正社員になって、そのままだから勤続年数も長く、世間を知らない。純真さ、真面目さは、まったく昔のままである。仕事場と自宅の往復で、女性との出会いもなく現在独身。住宅ローンは背負っているものの立派な一戸建ても建て、無いのは嫁さんだけである。
その彼がいつだったか、爆発した。次から次から、他のスタッフが彼に頼み込む仕事の案件が増加し続け、忙しくてやっていられないと爆発した。私から言えば、世間知らずの爆発であるが、本人にとっては一大決心の上での爆発である。
残業をしたことがない。朝9時半始業で、夕方5時にはピッタリと帰る。それで爆発である。世間には存在しない形式の爆発であるが、本人なりに朝早く出たことなど、私に訴えた。
そこで、勤務時間の集計をしましょう。他の社員は何時間働いているだろう。
私の労働時間と比較してみようか。と言って、仕事の内容と働いている時間数を記入するように命じた。
一方でその後に息子さんを交通事故で亡くされた方が弊社のパートタイマーを24年間勤続されたが、精神的ショックで外出できず、出社不能で退社された。前述の40歳のA君は、それこそ本当に忙しく、毎日1時間半も早く出るようになり、後任のパート募集へと私が提案し、彼も同意した。
その時、私がうっかり言った。「今度採用するパートさんは、例えお子さんが居てもシングルマザーで、A君と一緒に働くうちに、A君の良さを見い出して嫁さんになってくれたらイイね。」この一言から、彼からの提案が追加されて、パートや正社員募集ではなく、アルバイト募集も入れましょう。というのである。
そして、張り紙をしたら、早速お隣の58歳?ぐらいの主婦の方から応募があった。「お宅で募集なら、私働こうかしら。」すると、A君が「パソコンできますか。」と言って断ったそうだ。彼の採用基準にはパソコンがあるらしい。彼自身がパソコン使えないのに、仕事でも使わない仕事もあるのに、不思議である。
私の採用基準は甘い。誰でも良い。真面目な方なら年齢不問である。しかし、A君の採用基準は厳しい。それ以来、彼は、忙しいとも言わず、文句もなく、頼みもしないのに毎日早く出社して、黙々と仕事に打ち込んでいるので、周囲からの提案もあって給与にプラスアルファして支給してはいるが、爆発がない。
しかし、その後の応募もない。爆発が心配な状況になるのだろうか。40歳まで独身で頑張っている彼のことだから、アルバイトの来る日まで頑張るつもりなのか分からない。
ただ明確なことは、代表者としての私の採用基準より、工場長のA君の採用基準の方が相当に厳しいことだけは間違いない。労使の思惑は一致しないものだと痛感させられた。