先日、高速道路の前を走っていた車両が、サービスエリアの最前列の中央部に停車するかと思うと、ドアが通常のように、横方法で回転するのではなく、縦方向の時計回りに回転して、空に向かって突き上げるように開いた。助手席も同様で後ろから見るとバッタの羽のようだ。一昔前にいわゆるスーパーカーのランボルギィーニで見掛けたような記憶がある。しかし、今回は国産車による改造である。最初からの形状ではなく改造している。
フロントグリルの中には、LED照明が仕込んであり、チカチカと点滅している。運転手は茶髪のお兄さん、助手席は赤毛の彼女様のようである。

トイレに行くわけでもない、買い物でもない、ただ単にドアを空に向けて開放し、大音響でAKB48のような楽曲が鳴り響いている。目的は、≪見せびらかし行為≫のように思われる。

確かに、多くのギャラリーが周囲から視線を集めている。注目されていることが快感のようなお二人さんは、何を話しているのか分からないが、ゲラゲラと笑っている。

いわゆるドレスアップカーというジャンルの趣味人なのであろう。人がどんな趣味であろうと、好きでやっていることだから、トヤカク言う必要性もないが、敢えてこの紙面で言ってみることにした。

私の価値観からすると、このお兄さんが、ドレスアップカーという顰蹙(ひんしゅく)を買っている可能性のあることを知らないのではなかろうかという推論である。

「人は見掛けによらない」という一般的な表現があるが、私は、「人は見掛けによる」と思っているので、勝手に推測すると、年の頃は30歳ぐらい、職業はガテン型といういわゆる肉体労働者系で、推定月収は33万円前後と思われる。勝手に<ガテン30氏>と命名することにしたが、この<ガテン30氏>は人生設計をお考えの上で、この趣味をおやりなのだろうか、楽しければイィじゃんとか、カッコいぃんだからしょうがねぇージャン、などいうレベルでなければ良いと思わずには居られない。

一方で、私の近所には、同じような30歳前後の年齢で、発展途上国から来日し、祖国の将来のために勉学に励み、飲食店の皿洗いをしながら、僅かな収入のなかで、傘を買うか本を買うか悩み、結果的に専門書を購入している青年が居る。見かねてコンビニで購入した傘をプレゼントしたことがある。食べる物、着る物、すべてが清貧の思想であり、実践である。

<ガテン30氏>のような趣味人は少なくないと思う。雑誌でもドレスアップカーというジャンルの雑誌が成り立っているし、改造して稼いでいる業者も全国的に存在していると思われる。他人が好きでやっていることだから、トヤカクいうのは宜しくないと言われるかもしれないが、世間体を気にしない、冷笑されていることに気が付かない。そんな不感症の青年が増えている現実も大人達は指摘するべき社会的責務があるのではなかろうか。

生きたお金の使い方を知ってほしい。堅実さ、勤勉さ、などという日本人の美徳を思い出してもらえれば幸いと思わずには居られない。

顰蹙(ひんしゅく)などという言葉は、ワープロだから書けるようなものの、書き取り試験では書けない、すなわち日常性のある言葉ではない。現代日本の死語なのかも知れない。

<ガテン30氏>に知性は求めないとしても、品性を理解して頂ければ、彼の人生は良き伴侶を得て幸せになれるのではなかろうか。

ドレスアップという美語で表現する形容と、冷笑される車という価値観の存在を社会的に大人達が発信しないことで、この社会は低落してきているような気がしてならない。