ある観光地のはずれにある料理屋さんからネズミ駆除の依頼を受けた。東京から車を飛ばして、と言っても時速120キロしか出ない弊社の営業車で、約3時間を要する距離である。
 この料理屋さん、レストランではない。まず、毎日営業していない。お客様のある日だけ営業される。ところが、2階には大広間があって、駐車場にはバスも2台あって、人数の多い団体客を相手にしているという宴会とか団体専門の地域に密着した地元客だけを相手にしているという業態なのである。
 そのお店の厨房や2階の増築した部分などに、ネズミが出てしまったわけだから、駆除しなければならないというのも理解できる。

 このお店の経営者は、厨房の冷蔵庫では東京の業者に騙されたと言い、遠方の業者に依頼することが怖いし、ちゃんとした仕事をするのか、と監視員のように施工に立ち会っておられるのです。そして、1回目の施工が終了し、2週間後に2回目の施工の予定を入れるためにお電話したところ、「何しろ凄いね。あんだけ走り回っていたのに、初回の施工をやってから、まったく見かけなくなったし、物音さえしなくなった。」とほめて頂きました。何だか、幼稚園の先生にほめられたような、変な感覚だったのを覚えている。

 2回目の施工に同行した際、驚きました。2階に30人ぐらいの女性達が集まっている。駆除作業の日程では、お客様の来店や宴会の予定はないと聞いたのに、2階には人が一杯である。
 しょうがないな。遠くから来ているし、ガソリン代も高速代も掛かっている以上は、何もしないで帰るわけにも行かないから、外周部と1階の半分ぐらいの支障がない範囲だけで終わらせようと打ち合わせしていると、このお店の経営者が、「社長さん、ちょっと。」と呼ぶのである。
 2階に行ってみると、たくさんの女性がいるが飲み物しか出ていない。そして、簡単なステージがあるが、その上からマイクを片手に、今日はネズミを駆除する専門家の会社の社長が、東京から来ている。最先端の技術で施工してもらい、前回の施工でピタッと止まったようだが、まだ、6回ぐらい通ってくるという。ついては、ネズミ駆除の方法が変わっているし、素人がやってはいけないことも教えてもらえるから、今日は勉強して帰って下さい。」というのである、皆さんの拍手でステージの真ん中に立たされたしまったのは、私以外に誰もいない。
 私の話はつまらないし、限られた紙面なので、省略させて頂きますが、この社長は、そのお店で働くパートさんを中心に、ご近所の人々で、町中に放送して歩くような女性達を一堂に集め、この料理屋さんでは、ちゃんとしたプロを呼んで、最善の方法で駆除し、衛生的に運営していると、見事にアピールされてしまったのである。
 どこかのスーパーマーケットの社長のように、パートさんの目に触れないように、閉店後に分からないように施工してください、というのと大違いだった。それにしても緊張した。