仕事柄、ネズミの習性は熟知しているし、ネズミの心理状態まで読み取ろうと腐心しているが、人間の習性を垣間見てしまうこともある。
先日も現地調査にお伺いすると、「3年前に、台所のこの穴を埋めたら、ネズミが居なくなった。」とおっしゃっておられた。
「・・・したら、・・・なった。」という理由と結果から構成される文脈である。そして、特に自分がやったことが、成果を上げたと評価したい時には、尚更自分の努力を認めたいらしい。
台所の穴を塞いでも、建物から逃げ出したわけではなく、ずーと生息していたと考えられる場合があります。なぜなら、天井裏など点検口を開けて調査致しますと、半年ぐらい前のフンがたくさん見掛ける場合も少なくありません。
出て来ないだけで、見掛けないから、居なくなった。のだろう、という論旨の典型となる。

ネズミの心理状態からすれば、「そうかい、ここの穴から出なければ、自分達は自由にして良い空間が提供されたわけだ。」などと自分勝手な理解をするわけです。

建物の外部からの侵入口を閉鎖しなければ、いつの日か再発することになります。ですから、一時的に止まったように感じても、気が付かれないようにネズミ達が動き回っているだけであり、役者としては一枚上のような気がします。

人間が単純明快に自分の我説を展開すれば、ネズミの正しい理解には到達できそうもありません。