その昔、田中角栄氏が総理の頃、NHKの番組でおもしろいことを言ったのを覚えている。

「雑巾を自分の家のために縫っても国民総生産は増えないが、自分で縫った雑巾を隣に売れば、国民総生産は増加する。すなわち、景気は良くなる。」

これに対して、慶応大学教授が「そんな馬鹿な。」と反論すると、「君ね、勉強不足だよ。」と言い放った。

そして、田中首相は、「鉄道の線路、どんどん取り換えれば良い。景気は良くなる。」と続けたのである。

この発言と発想は今になってみても正しいと思われる。

 

すなわち、何かの売上高が立ち上がって、多くの人々が働けるようにすれば良い、ということになる。

そう考えると、国土強靭化計画という2014年に閣議決定されたプランは、実に壮大でスケールの大きい、近年の政治家からは、出て来ない有能な官僚の発案かと疑いたくなるプランだと思われる。

コンクリートより人へ、などと公共工事の発動は、否定的な見解が多いが、住宅の建て替えなども含まれるため、裾野の広い景気浮揚策と考えられる。

「ナショナル・レジリエンス」という英訳があてられている。

「レジリエンス」は、「困難に負けない」とか、「しなやかで折れない心」などという意味の心理学の用語だったと思う。

すなわち、「回復する力」のある国造りということになる。

被害を最小限にとどめ、復興を平時より意識して、プランの中に落とし込んでおく。

そんな発想が求められる。

 

人が働けない。

工場が止まっている。

工場が海外に流出してしまっている。

 

昔のような造船や電化製品など、次々に韓国や中国、そして、インドに奪われて、我が国には世界レベルで戦える製造業の得意分野がなくなった。

そんな時代に、自分の家の雑巾は縫わずに、隣りの雑巾をみんなが作れば、この国は豊かになる。

今日の災害ではなく、近未来の災害に備えることは、だれひとり損しない政策と言えるのではなかろうか。

老朽化した橋梁の新造化、電信柱の撤去と地下のライフラインの設置など、課題は無尽蔵なくらいある。

日本人の畏敬の念を国民が忘れないうちに、叩き込んでほしいものだ。